2017年8月10日書店発売予定

ジュール・ヴェルヌ 著
荒原邦博・ 三枝大修 訳

北インドの大自然を舞台に繰り広げられる冒険と復讐の物語。セポイの叛乱で捕虜を虐殺し合い、あまつさえ、互いの妻を殺し合った宿敵同士、イギリス陸軍士官エドワード・マンローと叛乱軍の首領ナーナー・サーヒブ。叛乱鎮圧後、憂鬱に沈むマンローを励まそうと、友人たちは鋼鉄の象が牽引する豪華客車を用意、インド横断の旅に出る。闇の中を蠢く叛乱軍の残党たち、正気を失い、松明を持って密林をさまよう謎の女性「さまよえる炎」……。旅路の果てに遂に再会した敵同士の運命やいかに。「ヴェルヌのもっとも奇妙な小説」(ジュリアン・グラック)、本邦初完訳。

ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションの第二回配本である本書は、『蒸気で動く家 北インド横断の旅』(Jules Verne, La Maison à vapeur. Voyage à travers l’Inde septentrionale, Paris, Hetzel, 1880)の全訳を収録した。本作品の翻訳は、明治期の森田思軒による第一部のみの抄訳(英語からの重訳)以来、長らく実現の機会を持たずにいたことから、本書が日本語による初めての完訳となる。
……
現代のわれわれが『蒸気で動く家』に関心を向けるのは、ヴェルヌの小説連作の論理それ自体に由来する。彼が書いていたのはなるほど、子供がヒーローの活躍に手に汗握り、「気球」や「ネモ」といった目覚ましいアイデアに心躍らせる物語であった。そのようにして『気球に乗って五週間』、『地底旅行』、『海底二万里』、『八十日間世界一周』などから、青少年向けのSF冒険小説作家ヴェルヌというイメージが形作られ、消費されてきたのだった。しかし、ヴェルヌは明白にこうした紋切り型から逸脱する問題作をいくつも〈驚異の旅〉の中に組み込んでおり、それらは決して上記のような有名作品に比べて失敗作だったというわけではない。たしかに小説としてはより複雑で奇妙な形態を示しているがゆえに、あまり理解されることなく取り残されてきたのだが、実際は、今日の大人の読者にとっても決定的に新しい何かを含んだ、不思議な魅力を湛えた作品なのである。そして、そのような小説の代表として、〈驚異の旅〉第二一番目の作品『蒸気で動く家』は、我々の前で読まれるべき時が訪れるのを秘かに待っていたのだった。(「訳者あとがき」より)


目次

蒸気で動く家─北インド横断の旅─
第一部
第二部

訳註
解説 石橋正孝
訳者あとがき 荒原邦博
細目次


著者
Jules Verne(ジュール・ヴェルヌ)
1828年,フランス北西部の都市ナントに生まれる.二十歳でパリ上京後,代訴人だった父の跡を継ぐことを拒否し,オペレッタの台本やシャンソンを執筆する.1862年,出版者ピエール=ジュール・エッツェルと出会い,その示唆を得て書いた『気球に乗って五週間』で小説家デビューを果たす.以後,地理学をベースにした冒険小説を次々に発表.作者が1905年に没するまでに六十篇を超えたそれらの小説は,いずれもエッツェル社から刊行され,1866年以降,その挿絵版が〈驚異の旅〉という総タイトルの下にシリーズ化された.代表作は,『地球の中心への旅』『海底二万里』『八十日間世界一周』『神秘の島』『ミシェル・ストロゴフ』等.多くの科学者や探検家が子供の頃に読んで強い影響を受けただけではなく,コナン・ドイル以降のジャンル小説の書き手はもちろん,レーモン・ルーセル,ミシェル・ビュトール,ジュリアン・グラック,ジョルジュ・ペレック,ル・クレジオ等々,ヴェルヌとの文学的血縁関係を自認する作家は少なくない.

訳者
荒原邦博(Arahara, Kunihiro)
1970年,品川区生まれ.東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了,同大学で博士号(学術)取得.日本学術振興会特別研究員を経て,現在,名城大学人間学部人間学科准教授.日本ジュール・ヴェルヌ研究会会員.専門はマルセル・プルースト,美術批評研究.著書に『プルースト,美術批評と横断線』(左右社),共訳書にカトリーヌ・マラブー編『デリダと肯定の思考』(未来社).

三枝大修(Saigusa, Hironobu)
1979年,市原市生まれ.東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学,ナント大学で博士号(文学)取得.東京大学助教を経て,現在,成城大学経済学部准教授.日本ジュール・ヴェルヌ研究会会員.専門はフランス近代詩,翻訳論.共訳書にフレデリック・ルヴィロワ『ベストセラーの世界史』(太田出版),ミシェル・レリス『オペラティック』(水声社).

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