2018年10月31日書店発売予定

ジュール・ヴェルヌ 著
新島進 訳

元祖ヴァーチャルアイドルと見えない花嫁……。本巻では、東欧を舞台にしたゴシック小説的幻想味あふれる後期の傑作二篇を収録。「カルパチアの城」はブラム・ストーカーの「ドラキュラ」に先立つこと五年、吸血鬼伝説の本場トランシルヴァニアを舞台に、作家が推敲を重ねた自信作。ホフマン、ポーやルルーの「オペラ座の怪人」などを好む方々には特におすすめの完訳版。レオン・ブネットの挿画40枚収録。
「ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密」は、H・G・ウェルズ「透明人間」の向こうを張ってヴェルヌが書いた透明人間もの。本作は息子のミシェル・ヴェルヌが書き換えた版(未訳)が長く読まれてきたが、今回がジュール・ヴェルヌのオリジナル版本邦初訳となる。唖然呆然の最終章のみ、ミシェル・ヴェルヌ版を併録した。
二作ともに、不在の女性への狂恋が物語を貫いており、美しきヴォーカロイドとも言うべきラ・スティラを追い求める二人の男(「カルパチアの城」)、完璧な令嬢ミラへの倒錯的愛に身を捧げるヴィルヘルム・シュトーリッツの、身の毛もよだつ透明人間ストーカーなど、さまざまな意味での現在性を孕んだ「〈独身者機械〉小説」(新島進)であり、ヴェルヌの最も21世紀的な小説。面白さ抜群の二篇を練り上げられた訳文と詳細な註を付して贈る。

 

両篇が秘めるヴェルヌらしさは決して他に引けをとらず、そして、なにより作品がきわめて現代的な、それもまさに今、二一世紀に通じるテーマを扱っていることを強調しておかなければなりません。[…]見えない花嫁と元祖ヴァーチャル・アイドル。[…]この二篇に共通かつ中心的なモチーフはなにかと問われれば、それは「不在の女性への熱情」ないしは「男性の一方的な女性への情念」ということになるはずです。二作合わせて四人の独身者と、独身者機械となった二人の花嫁[…]。この究極の独身者性は、視覚と聴覚による仮想現実に囲まれているわれわれ現代人の「戸惑い」を先どりしているのではないでしょうか。(「訳者あとがき」より)


目次

カルパチアの城

ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密
 ミシェル・ヴェルヌ版第一九章

訳註
解説 石橋正孝
訳者あとがき
細目次


著者
Jules Verne(ジュール・ヴェルヌ)
1828年,フランス北西部の都市ナントに生まれる.二十歳でパリ上京後,代訴人だった父の跡を継ぐことを拒否し,オペレッタの台本やシャンソンを執筆する.1862年,出版者ピエール=ジュール・エッツェルと出会い,その示唆を得て書いた『気球に乗って五週間』で小説家デビューを果たす.以後,地理学をベースにした冒険小説を次々に発表.作者が1905年に没するまでに六十篇を超えたそれらの小説は,いずれもエッツェル社から刊行され,1866年以降,その挿絵版が〈驚異の旅〉という総タイトルの下にシリーズ化された.代表作は,『地球の中心への旅』『海底二万里』『八十日間世界一周』『神秘の島』『ミシェル・ストロゴフ』等.多くの科学者や探検家が子供の頃に読んで強い影響を受けただけではなく,コナン・ドイル以降のジャンル小説の書き手はもちろん,レーモン・ルーセル,ミシェル・ビュトール,ジュリアン・グラック,ジョルジュ・ペレック,ル・クレジオ等々,ヴェルヌとの文学的血縁関係を自認する作家は少なくない.

訳者
新島進(Niijima, Susumu)
慶應義塾大学文学部仏文科卒業,同研究科修士課程(フランス文学)修了,レンヌ第二大学で博士号(文学)取得.現在,慶應義塾大学教授.専門はレーモン・ルーセル.共著書に『ジュール・ヴェルヌが描いた横浜─『八十日間世界一周』の世界 』(慶應義塾大学教養研究センター選書).訳書にレーモン・ルーセル『額の星・無数の太陽』(國分俊宏との共訳,平凡社),ジュール・ヴェルヌ『レのシャープ君とミのフラットさん』(大学書林),ミシェル・カルージュ『独身者機械』(東洋書林),レーモン・クノー『青い花』(水声社)ほか.日本ジュール・ヴェルヌ研究会事務局長.

画家
堀江栞(Shiori, Horie)
多摩美術大学美術学部絵画学科日本画専攻.2015年、五島記念文化賞美術新人賞受賞.
ホームページはこちら.
https://www.shiorihorie.com/

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