2020年3月19日書店発売

大宮勘一郎、橘宏亮、西尾宇広、R・クリューガー、G・ノイマン、W・ハーマッハー、H・ベーメ 著
大宮勘一郎、橘宏亮、西尾宇広 編訳

シュミット、アガンベンからクライストを読む

19世紀初頭を駆け抜けたドイツの天才劇詩人・クライスト。「チリの地震」「ミヒャエル・コールハース」「壊れ甕」そして「ペンテジレーア」など、日本でも長年親しまれ──鷗外が驚愕し芥川が激賞し太宰が傾倒した──、カフカ、ヴァルザー、グラック、J・M・クッツェー、あるいは多和田葉子、さらにカール・シュミットやジル・ドゥルーズ、ポール・ド・マンらを魅了してきたクライストの作品世界を、「政治的なるもの」を斬り口に、そのアクチュアリティを抽出する。国家の創設と防衛、戦争と例外状態、人民軍、共和制と愛国主義、公共圏と君主制など、クライストの作品世界の形姿は「政治的なるもの」=実存を賭した抗争に覆われていると言っても過言ではない。吊り支えられる崩壊と破局の美学を根底にした、ギリシャ悲劇(「アンティゴネー」「バッカイ」)に通じるその高貴な劇的世界に新たな光を当てる、本格的にして野心的な初のクライスト論集。書き下ろし力作評論三篇に、ノイマン、ハーマッハーを初めとするドイツでの最重要論文四篇を併せて訳出。略伝、作品梗概併録。

戦争は「国民」同士による、おのれの存否を賭した全的な争いへと変貌する。「国民」というこの新たな、「一般意志」を担う唯一の「身分」がそのまま国防を、とはすなわち彼ら自身の存在と存立を自ら護り保つ主体として組織化される。ここに、「政治(Politik)」に代えて「政治的なるもの(das Politische)」という概念の必然性も生じる。それはまさに、ある共同体の創設、自立あるいはその秩序そのものが観念的にではなく現実的に問われるような危機的、ないし例外的事態に関わるような概念化である。「政治的なるもの」は、「実存的(existenziell)」な概念なのである。クライストの文芸テクストにおいては、まさしく危機の中から、それでもある一つの政治的フォルムが、高い緊張をはらみつつ、何よりも詩的に現れでる。(まえがきより)


目次

まえがき

クライスト略伝

わたしの言う自由とは─クライスト「ヘルマンの戦い」と「聖ドミンゴの婚約」における夷狄支配
ルート・クリューガー╱西尾宇広訳

「ペンテジレーア」─「政治的なるもの」と「愛」
大宮勘一郎

流動化する国家─クライストの政治的著作における共同体の問題について
橘宏亮

機械仕掛けの国父─クライストにおける〈君主〉の形象
西尾宇広

口ごもる言葉と躓く身体─クライストの文化的人間学概要
ゲルハルト・ノイマン╱大宮勘一郎訳

描出の揺らぎ─クライストの「チリの地震」
ヴェルナー・ハーマッハー╱大宮勘一郎、橘宏亮、西尾宇広訳

「事態のこの恐ろしい変転」─クライスト作品における事物の作用力
ハルトムート・ベーメ╱橘宏亮訳

クライスト主要作品梗概

あとがき


編著訳者

大宮勘一郎(Omiya Kanichiro)
1960年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授(ドイツ文学)。主な著作に『ベンヤミンの通行路』(未來社、2007年)。主な訳書に、ゲーテ「若きヴェルターの悩み」(集英社文庫ポケットマスターピース02、2015年)など。

橘宏亮(Tachibana Hirosuke)
1982年生まれ。ヴュルツブルク大学博士課程在籍。主な論文に、「国家定立における構成的要素としての破壊─ハインリヒ・フォン・クライストとルソーの『社会契約論』」(『藝文研究』109-2号、2015年)など。<

西尾宇広(Nishio Takahiro)
1985年生まれ。慶應義塾大学商学部准教授。主な論文に、「クライスト『ホンブルク公子』あるいは解釈の力─1800年頃の法と文学をめぐる一局面」(『ドイツ文学』第152号、2016年)、「ファマとメルクリウス─ジャーナリズムの歴史から見たクライスト『ベルリン夕刊新聞』の位置」(慶應義塾大学独文研究室『研究年報』第35号、2018年)など。

ルート・クリューガー(Ruth Klüger)
1931年生まれ。元カリフォルニア大学アーヴァイン校教授。主な著作に、『生きつづける─ホロコーストの記憶を問う』(鈴木仁子訳、みすず書房、1997年)、『さまざまな破局─ドイツ文学について』(1994年、増補改訂版2009年)、『女は別の読み方をする』(1996年)、『途上で失くして─回想録』(2008年)、『逆風─詩と解釈』(2018年)など。

ゲルハルト・ノイマン(Gerhard Neumann)
1934年生まれ、2017年没。ボン、フライブルク、ミュンヒェン大学教授を経てベルリン自由大学名誉教授。主な著作に『イデーの楽園』(1972年)ほか。ゲーテ、クライスト、フォンターネ、カフカなどに関する論文多数。『フランツ・カフカ批判版全集』(1992─2013年)の共同編集者。

ヴェルナー・ハーマッハー(Werner Hamacher)
1948年生まれ、2017年没。ジョンズ・ホプキンズ大学教授を経て、元フランクフルト大学教授。主な著作に『横溢─ヘーゲルにおける弁証法的解釈学の生成と構造』(1978年)、『言語正義』(2018年、未完)など。ベンヤミン、ツェラン、デリダ、ド・マンなどに関する論文多数。

ハルトムート・ベーメ(Hartmut Böhme)
1944年生まれ。元ベルリン・フンボルト大学教授。主な著作に、『理性の他者─カントの例にみる合理性の構造の展開』(ゲルノート・ベーメとの共著、1983年)、『デューラー【メレンコリアI】─解釈の迷宮』(1989年)(加藤淳夫訳、三元社、1994年)、『フェティシズムと文化─モデルネのもう一つの理論』(2006年)など。