アデライダ・ガルシア=モラレス 著
野谷文昭、熊倉靖子 訳

〈南〉を訪れる直前で中断された、ビクトル・エリセの名作『エル・スール』の原作。映画では描かれなかった後半部、物語のクライマックスが、いま明らかになる。父はなぜ沈黙のうちに閉じこもっていたのか。憧れの父の死を契機にセビーリャへ赴いた少女の見たものは……。映画製作当時、エリセの伴侶として彼に霊感を与えたアデライダ・ガルシア=モラレスによる、時代を超えた成長小説。

 

映画「エル・スール」は、クレジットにあるように、同じタイトルをもつ中篇小説を原作としている。その中篇は、一九八一年にすでに執筆されていながら、映画が制作された時期にはまだ本になっていなかった。著者はアデライダ・ガルシア=モラレス、当時はエリセの夫人だった作家である。映画がヒットしたおかげで、中篇「エル・スール」はもうひとつの中篇「ベネ」と併せて一冊の本になり、一九八五年に刊行されるとたちまち版を重ね、多くの読者を獲得したのだった。
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ところで、映画を観た読者の興味をそそるのは、やはり小説の終盤で語られる、主人公の南への旅だろう。エリセが撮りたくても撮れなかった部分だ。この旅で彼女は父親の別の顔を知り、自殺の謎を解明することになると同時に、この旅によって少女自身が成長する。彼女の旅は、この小説にビルドゥングスロマン(教養小説)としての性格を付与していると言える。また、そこに地理的、文化的な北と南の和解というテーマを読み込むことも可能だろう。もっともそれはアデライダよりもエリセにいっそう親しいテーマではあるが。(野谷文昭、本書解説より)