ジャン・ジュネ 著
鵜飼哲、梅木達郎 訳

1982年9月、西ベイルートの難民キャンプで起きた凄惨なパレスチナ人虐殺。事件直後に現場に足を踏みいれたジュネは、そこで何を見たのか。本書は、事件告発のルポルタージュであると同時に、70年代パレスチナの光煌めく記憶を喚起しながら、若い戦士たちとの交わりを通して幻視された美と愛と死が屹立する、豊穣な文学作品である。20世紀後半のフランス文学を代表する傑作『恋する虜』に直結し、最晩年のジュネの激烈な情動が刻まれた比類ないテクストである。事件をめぐって証言するジュネへのインタヴュー、鵜飼哲の論考、パレスチナ国民憲章全訳、他資料併録。

 

「エクリチュールはようやくそれを、この死を言うことに役立とう。書くこと―それをつかもうとするたびに思考が崩れてしまう、この極限的な現実と向き合うこと。そして事実、シャティーラの語り手は死の後を追いかけ、死を狩り出し、死を追いつめ、死と子供のように戯れる、馬跳びや双六ゲームによって、ある死体から他の死体へと導かれながら。」
論集『シャティーラのジュネ』の編者、演出家・翻訳家のジェローム・アンキンスのこの表現は、「シャティーラの四時間」のエクリチュールの特質を正確に言い当てている。アンキンスが続けて指摘するように、語り手がこの生々しい死を直視することができたのは、ヨルダンのパレスチナ・キャンプで過ごした日々の記憶が、彼の内側から発する「光」のおかげだった。「シャティーラの四時間」と「ジェラシュとアジュルーン山中で過ごした六か月」、この二つの圧縮された時空の間の往来が、特異な遊戯の間隙を生み出して、このテクストの比類のない力を織りなしている[鵜飼哲、あとがきより]


目次
シャティーラの四時間(ジャン・ジュネ/鵜飼哲訳)

ジャン・ジュネとの対話(ジャン・ジュネ+リュディガー・ヴィッシェンバルト+ライラ・シャヒード・バラーダ/梅木達郎訳)

〈ユートピア〉としてのパレスチナ─ジャン・ジュネとアラブ世界の革命(鵜飼哲)

生きているテクスト─表現・論争・出来事(鵜飼哲)

[資料]パレスチナ国民憲章(早尾貴紀訳)/地図/パレスチナ関連年表