旦敬介 著

ライティング・マシーン=バロウズ誕生前夜の南米旅行に焦点を合わせ、初期作品『ジャンキー』『クィア』と当時の書簡の厳密な読解を軸に、自己の喪失と発見の過程を辿りながら、バロウズの作家としての出発点が南米とヤヘ体験にあったことを示して、『裸のランチ』に至る作家的自立の過程を跡づける。50年代バロウズを誰よりも厳密に読み込み、そのテクストと人生に触れんばかりに接近することで、他者を渇望するバロウズの魂についに共振する斬新鮮烈なライフワーク。バロウズを〈南〉から新たに発見する鮮烈な評論は、まちがいなくこれからのバロウズ読解の指標となるものである。

 

[第二部]では、たしかにバロウズの作家としての重大な出発点ないし不可欠な変容が南米とヤヘの体験にあったことを示せたと思う。また、『クィア』の旅とヤヘ探索との関係(無関係)に関する指摘はこれまで世界中で誰も言っていないことだと自負している。バロウズの作品が、テクストとして厳密に読まれる機会がどれほど少ないかを示していると思う。……
だからこそ、生半可な伝記的情報、有名なキャッチフレーズ、悪そうなイメージだけが注目されがちなバロウズの人間と作品を、既成のイメージを乗り越えて、彼に寄り添って深く読みこむ読者の道標になるような本を作りたかった。[あとがきより]


目次

0 ── プロローグ旅のはじまり
自由のパトロール
ことばの力
ぺインキラー

第I部 偵察
1 ── ライティング・マシーン
ナイロビのオリヴェッティ
代書人たち
高速ライティング
一人称の発見

2 ── マネー・マターズ(お金は大事)
ディスカウント・レート
月二〇〇ドル
加算機
中産階級の体面

3 ── 旅の途上にて
ニールとジャックの旅
バロウズの旅

第II部 リオ・ブラーボの南
4 ── メキシコ・シティ
理想の場所
事件
脱出

5 ── ヤヘ探し
最も長い旅
五一年のエクアドール旅行
コロンビア行き
ジャンキーとクィア
一九五三年のコロンビア
プトゥマーヨ遠征
運搬不能なキック

6 ── ヤヘの果実
喪失
ルーティーンの獲得
ディクテーションの到来
与太話のむずかしさ
芸術のプラグマティズム
事実のレベルの混乱
旅のゆくえ

第III部 インターゾーン
7 ── タンジェリーン
見出された町
インターナショナル・ゾーン
異邦のミカン
レッセ・フェール都市
拒絶
書き飛び
ジャンク・シックネス
タンジェでの再会

8 ── 自由の国へ
性的イマジネーション
ドクター・ベンウェイの誕生
フリーランドの逆説
自発性と媒体性
裸のランチ
カットアップ

9 ── エピローグ記憶の中の人たち
父親としてのバロウズ
フラットな関係
レクシントン再訪
コンタクトの渇望

書誌
地図

著者
旦敬介(Dan, Keisuke)
1959年生まれ。作家、ラテンアメリカ文学研究者、翻訳家。1982年に初めてペルーとボリビアに旅して以来、メキシコ、スペイン、ブラジル、ケニアなどに暮らしながら文章を書く。現在、明治大学国際日本学部教授。著書に、小説『逃亡篇』(日本放送出版協会、1993)、『ようこそ、奴隷航路へ』(新潮社、1994)など。訳書に、マルケス『幸福な無名時代』(ちくま文庫、1995)、『愛その他の悪霊について』(ガルシア=マルケス全小説、新潮社、2007)、ボルヘス『無限の言語』(国書刊行会、2001)、ソル・フアナ『知への賛歌』(光文社古典新訳文庫、2007)他多数。