TWICE TOLD TALES

Book Review Archive

宮脇孝雄


7 Dan Simmons, Summer of Night


ブラッドベリ+キング


 ご存知かと思うが、ペーパーバックを手にとって、その本がどういうジャンルに属するかを知りたいときには、裏表紙の右下か左下の、定価が印刷されているあたりを見ると、だいたいわかるようになっている。たとえば、新聞に掲載されたユーモア・コラムをまとめた本なら、Journalism/Humour と書かれているし、伝記ならNonfiction/Biographyであり、いわゆる純文学と見なされる小説なら、Fiction/Literature、SFならFiction/Science Fiction 、推理小説なら、Fiction/Mystery、あるいはFiction/Crimeとなっている(出版社によって表記の違いはある)。純文学でも、推理ものでも、SFでもない小説は、Fiction/General、つまり、〈小説/一般〉と表記されるのが普通である。

 二十年前なら、この分類だけで小説のジャンルはだいたいカバーできたが、七〇年以降、小説の分野には、新しいジャンルの読み物が登場して、人気を博している。たとえば、ハイテク軍事冒険小説やホラーものがそれである。

 いつの頃からか、夏は怪談の季節ということになっているが、暑中見舞いの意味も込めて、今回は、新しいホラー小説を一冊紹介してみたい。

 怪奇幻想の小説といえば、もともとは浪漫主義文学の一種であって、それこそ何世紀も前から文学史に花を添えているが、毎月のようにペーパーバックで発売されるホラー小説は、それとはちょっと趣きが違う。

 アメリカの出版界でホラー小説がブームになったのは、ふさわしい書き手を見つけ、上手に売り込めば、一冊の本が五十万部、六十万部は楽にさばけることに関係者が気がついたからである。場合によっては、百万部、二百万部を売ることも夢ではない。というわけで、次から次へと新しい作家が登場した。

 こうして出てきたホラー作家の中には、期待どおり売れた人もいるし、売れなかった人もいる。このブームの火つけ役になったのは、もちろん、日本でも人気のあるスティーヴン・キングだが、キングの場合は、素質があり、本も売れたという幸福な例である。最近のホラー作家の中で、素晴らしい素質の持ち主といえば、ダン・シモンズにとどめをさす。

 『カーリの歌』という長編(早川文庫)が翻訳されているダン・シモンズは、SFとホラーを交互に書いている作家で、九一年にSummer of Night というホラー長編を出した。今頃は、そのペーパーバック版が日本の洋書屋にも出回っていると思うが、夏のあいだに長めの長編を読もうと思っている人には、ちょうどいい作品ではないだろうか。

 簡単にいえば、これは十一歳前後の少年たちが主人公で、夏休みのあいだに不思議な出来事を体験し、学校に棲みついた悪魔と闘って、ついにそれを退治するという話である。

 時は一九六〇年。舞台は、イリノイ州の田舎町。少年たちは小学校の六年生。季節は夏。ご承知のように、アメリカでは夏休みが学年末に当たるので、この少年たちは、秋が来ると、よその町の中学校に通うことになっている。ところが、終業式の日に、学校の仲間が一人、校舎の地下のトイレに入ったきり、行方不明になってしまう。しかも、その校舎は十九世紀に建てられたもので、秋になったら取り壊される予定になっている。

 夏休みに入って、第一次世界大戦のときの兵隊の格好をした幽霊が窓の外に現われたり、寝室のクローゼットから影のような化け物が走り出したり、地面に穴を掘る巨大なミミズのような妖怪が出現したり、仲間の一人が怪しいトラックに轢き殺されかけたり、少年たちの周辺に、いろいろ恐ろしい出来事が起こりはじめる。

 少年の中に、早熟な天才児がいて、町に起こっている異変にいち早く気がつき、隣町の図書館や物知りの叔父さんの蔵書を調べた結果、不可解な出来事の原因はすべて学校の校舎にあることを突き止める。しかし、大人たちはそれを信じてくれない……。

 何か月か前、癌で死んだはずの女の先生が、墓場からよみがえり、夜の教室に現われるのを、少年の一人が窓越しに目撃する、という場面は、次のように描かれている。

 Mrs. Duggan turned and looked at him. From two feet away, the phosphorescent glare burned through the dark pool of deliquescence where her left eye had been. Teeth gleamed in a lipless smile as she leaned over as if to give Harlen a kiss through the windowpane. No breath fogged the glass.

「ダガン先生は振り返ってハーレンを見た。眼球が溶けてなくなり、黒っぽい液体の溜まった左の目が、わずか二フィート先で燐のような光を発していた。唇が腐り落ち、にっこり笑っているように見える口もとで歯がぎらりと光り、まるで窓越しに彼とキスをするように、先生は身を乗り出した。窓ガラスを曇らせる息はなかった。」

 ゾンビだから窓に顔を近づけてもガラスが曇らない、というのが芸の細かいところで、こういう描写の積み重ねが、この小説のリアリティを保証している。

 もちろん、こんな気味の悪い描写ばかり続くわけではなく、ダン・シモンズは、子供の頃の夏休みの楽しさや悲哀も丁寧に描き込んでいる。たとえば、子供たちが集まって野球をするシーンがある。片方のチームのピッチャーは女の子で、いつもは男まさりだったのに、十一歳になったその夏は妙に勝手が違う。胸が大きくなって(たぶん初潮もあり)、男の子たちと遊ぶのにちぐはぐな感じを覚えているのだ。男の子たちも、それに気がついて、野球をしながら、ふと黙り込んでしまう。

 イリノイ州の田舎町というのは、先輩格の作家、レイ・ブラッドベリがよく使った舞台。子供たちが妖怪と闘うのは、翻訳もあるスティーヴン・キングの『IT』と似ている。これは、ブラッドベリとキングの一番いいところをもらってきて、シモンズ流に描き切った作品である。

uoload 97/10/26


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