TWICE TOLD TALES

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若島正


12 Ursula K. Le Guin, A Fisherman of the Inland Sea (1994)


チャーテン理論と実験的結婚形態


 このところ、ル=グィンが久しぶりに活発な活動を再開して、あちこちのSF雑誌やオリジナル・アンソロジーに次々と作品を載せている。ここで取り上げるA Fisherman of the Inland Sea (1994) は、83年の “The Ascent of the North Face”1篇を除いて、すべて90年から94年のあいだに発表された作品8篇を集めた短篇集である。このうち翻訳されているものは、“The Shobie's Story” (SFマガジン92年1月号「ショビーズ・ストーリー」)1本しかない。ここでは、本短篇集の表題作でもあり、いちばん長い中篇の“A Fisherman of the Inland Sea” (1994) を紹介したい。

 この中篇は、“The Shobie's Story” と同様、いわゆるハイニッシュ・ユニヴァース物に属する。そこでは、惑星間通信装置としておなじみのアンシブルも出てくるが、ここでル=グィンが作業仮説として新たに持ち込んだのは、「チャーテン理論」なる概念である。

 これは、連続場なるものを仮定して、宇宙の異なる2点間をまったく時間差がなく移動できるとするもので、それによればある物体が異なる場所に同時に存在できることになる。ル=グィンはその作業仮説から、彼女としては珍しく、タイム・トラヴェル小説としての可能性を導いた。“A Fisherman of the Inland Sea”すなわち「内海の漁師」とは、驚くなかれ、実は日本の浦島太郎である。この浦島伝説を、タイム・トラヴェルに結びつけようというのだ。

 語り手は、惑星Oに住む、ヒデオという50歳の農夫である。彼は21歳のときに故郷の惑星Oを離れて、時間物理学を学ぶためにハインに渡ったときのことから物語を始める。

 彼の母はイサコという地球出身の女性で、彼は子供の頃にイサコからよく浦島太郎の物語を聞かされていた。イサコは、地球から惑星Oに渡るときに、その時間差のために身内がすべていなくなるという、浦島太郎と同じような経験をしたことがあったのである。

 さてヒデオは、31歳のときに惑星Oに戻ってみると、その間に惑星Oでは18年の時が経過し、故郷の景色にさほどの変化はないものの、母のイサコは65歳になり、4歳年下の妹コネコは4歳年上になっていた。とりわけ、出発前に愛を告白されたことのある女性イシドリはすでに別の男性と結婚し、二人の間に子供はなかった。失意のうちにハインに帰ったヒデオは、時間物理学の研究を進めてついに前述のチャーテン理論を完成し、時間差のない瞬間移動の実験成功を積み重ねて、再度惑星Oに瞬間移動で戻ろうとする。ところが、連続場のたわみが生じていてのか、ヒデオが戻った時点は、その同じ時刻ではなく、なんと彼がハインに旅立とうとした21歳のときだったのだ! 肉体は31歳だがその時間線での年齢は21歳のヒデオを、イシドリはやさしく慰め、二人は結婚して子宝にも恵まれる。これがタイム・トラヴェル小説として読んだときの物語のあらすじである。

 しかし、こうしたタイム・トラヴェル小説の枠組は、必ずしもこの中篇でル=グィンが試みた最大の主眼ではない。むしろ彼女の意図した実験は、惑星Oにおける結婚形態にある。人工が少ない惑星Oの社会(moiety)では、住民は<朝の人々>と<宵の人々>とに二分される。そして、朝の女性と男性1人ずつ、宵の女性と男性1人ずつの計4人がセドレツと呼ばれる結婚形態を構成する。ここで性関係を禁じられているのは、朝の男女どうしと宵の男女どうしだけである。朝と宵の女性どうしの関係は<昼>と呼ばれ、男性どうしの関係は<夜>と呼ばれる。また、朝の女性と宵の男性、あるいは朝の男性と宵の女性との間にできた子供は、女性側の所属に従って朝または宵の子供と呼ばれる。ヒデオは宵の男性、イシドリは朝の女性であり、彼らと共にセドレツを構成するのは、ヒデオの妹コネコ(宵の女性)と、どちらの時間線でも彼女の夫となるソタ(朝の男性)である。

 こうした新たな結婚形態から何が出てくるか、この中篇でその可能性が充分に探究され尽くしたとは言いがたいだけに、おそらくル=グィンはまだこれからセドレツを中心にした小説をいくつか書く構想を練っているのだろう。その実験の行方に期待したい。

(初出 『SFマガジン』96年4月号)
upload 98/10/20


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