〈概要〉
19世紀のフランスは、三つの偉大な小説連作を生み出した。バルザックの〈人間喜劇〉、ゾラの〈ルーゴン=マッカール叢書〉、そして、ジュール・ヴェルヌの〈驚異の旅〉。このうち、最も紹介が遅れているのがほかならぬ〈驚異の旅〉である。『海底二万里』『地底旅行』『八十日間世界一周』『十五少年漂流記』だけがヴェルヌではない。インド、アメリカ、東欧、北極はもちろん、太陽系をも股にかけて駆けめぐるヴェルヌ的想像力、その知られざる多彩な側面を、同時代の世相や歴史的大事件に取材したアクチュアルな冒険譚から近未来SF、ホフマン流幻想譚まで、初期作品から死後刊行の遺作まで、〈驚異の旅〉小説群より選りすぐりの傑作をコレクション。翻訳は、21世紀ヴェルヌ研究の世界的権威・石橋正孝によって、日本語訳の定本とすべく、従来の挿絵版はもちろん、単行本各版、雑誌連載、および草稿を参照して、底本のテクストを確定。本邦初訳を中心に、各巻に最新の解説、訳註、エッツェル書店刊行時の挿画を全収録し、全五巻の愛読愛蔵版として刊行する。各巻挿絵100点前後掲載。

〈仕様〉
A5判丸背上製かがり綴カバー装
本文9ポ二段組 平均530頁
装幀 間村俊一
装画 堀江栞(和紙、岩絵具)
発行 株式会社インスクリプト



〈全巻構成〉

第I巻(第4回配本)ハテラス船長の航海と冒険
荒原邦博・荒原由紀子訳(18年春刊) 予価:5,500円+税 [新訳]

未知の北極点を目指して突き進む冒険と狂気。イギリスによる北極征服に執念を燃やすジョン・ハテラスは、最新鋭の蒸気船フォワード号を指揮し、目標遂行のためとあらば、いかなる犠牲も顧みない。変幻自在の氷山と満天のオーロラが織り成すスペクタクル、極限の寒さの中の越冬、船員の叛乱、原初の楽園、生命に満ち溢れる凍らない海……。生き残ったわずかな者たちが最後に北極点で目にしたものとは……。初期の傑作、待望の新訳。

 


第II巻(第1回配本)地球から月へ 月を回って 上も下もなく
石橋正孝訳(17年1月刊) 特大巻:5,800円+税 [新訳]

巨大な大砲に取り憑かれた愛すべき紳士たちが活躍するガン・クラブ三部作を一巻に収録。その第一作『地球から月へ』は、ヴェルヌが幻視した「もう一つの」アメリカの物語。失業した大砲屋が砲弾を月に撃ち込むと言い出して……。続く『月を回って』で、無謀にも自ら月に向かうことになった三人の宇宙飛行士たちは、砲弾に幽閉されたまま、誰も見たことのない月の裏側へと回り込んでいく。それからおよそ二十年、地球に帰還した大砲屋の次なる目標は、北極。その顛末を語る『上も下もなく』は、ヴェルヌの過激なパロディ精神を炸裂させ、三部作をしめくくる。世界初訳の補遺、挿画128葉を収録した特大巻。本邦初の完訳。

 


第III巻(第5回配本)エクトール・セルヴァダック
石橋正孝訳(18年秋刊) 予価:5,000円+税 [完訳]

ある年の大晦日の夜、アルジェリア駐在のフランス陸軍士官エクトール・セルヴァダックは、従卒のベン= ズフとともに、尋常でない衝撃を受けて気を失う。意識を取り戻した彼らは、西と東が逆転し、一日の長さが半減し、重力が五分の一となり、彼ら以外に誰もいない孤島にいた……。果たしてなにが起きたというのか? アフリカの一部ごと宇宙空間に運び去られた一行の、太陽系ロビンソン漂流記。ヴェルヌの問題作、本邦初の完訳。

 


第IV巻(第2回配本)蒸気で動く家
荒原邦博・三枝大修訳(17年8月10日刊予定) 定価:5,200円+税 [完訳]

北インドの大自然を舞台に繰り広げられる冒険と復讐の物語。セポイの叛乱で捕虜を虐殺し合い、あまつさえ、互いの妻を殺し合った宿敵同士、イギリス陸軍士官エドワード・マンローと叛乱軍の首領ナーナー・サーヒブ。叛乱鎮圧後、憂鬱に沈むマンローを励まそうと、友人たちは鋼鉄の象が牽引する豪華客車を用意、インド横断の旅に出る。闇の中に蠢く叛乱軍の残党たち、正気を失い、松明を持って密林を彷徨する謎の女性「さまよえる炎」……。旅路の果てに遂に再会した敵同士の運命やいかに。「ヴェルヌのもっとも奇妙な小説」(ジュリアン・グラック)、本邦初の完訳。

 


第V巻(第3回配本)カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密
新島進訳(17年12月刊) 予価4,200円+税 [新訳、初訳]

東欧を舞台にしたヴェルヌ後期の幻想譚二篇を合冊。両作ともに、天才的科学者に補佐されたストーカー的独身者が暗躍する奇怪な物語。ヴェルヌ流ゴシック小説『カルパチアの城』では、死んだ歌姫が、吸血鬼伝説の本場トランシルヴァニアの城に姿を現わす。新訳。他方、『ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』は、H・G・ウェルズの向こうを張ってヴェルヌが書いた透明人間もの。本邦初訳の知られざる傑作。